神経難病のリハビリをする人の思考

主に神経難病領域を診療する理学療法士が自己学習した内容についてまとめているブログです。あくまで一個人の見解に過ぎないため、正確性は保証されません。新しく読んだ文献・書籍も紹介していきたいと思います。

パーキンソン病を理解するための基礎的な神経回路

 

こんにちは!

今日はパーキンソン病(以下、PD)によく関わる解剖・生理学的な神経回路についてまとめてみようと思います。

 

 

 

大脳基底核の解剖学

大脳基底核は小脳と共に錐体路を修飾し、運動を遂行するための大脳核で、前脳および中脳の基底部に分布する互いに密接な連絡をもつ神経核群の総称のことをいいます(1

ex)尾状核被殻淡蒼球(内節・外節)視床下核、橋脚被蓋核、黒質など

線条体”は尾状核被殻の事を指しますが、これはこれらが同一の発生起源をもっているためで、霊長類ではこれらの間を新皮質に由来する繊維群が内包として間を通過するため、二次的に分離されています。

 

参考文献2より

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大脳基底核の解剖

 

 

そしてこの大脳基底核を中心として大きく大脳(皮質)基底核ループと基底核-脳幹系という2つの神経回路、そして直接路・間接路とストリオソーム・マトリックス構造というネットワーク概念があるので、今回はそれについてそれぞれ説明しようと思います。

 

大脳(皮質)基底核ループ(corticobasal ganglia loop)

大脳皮質-基底核視床-大脳皮質という投射経路の総称を指します。

そして大脳皮質⇒線条体の経路である皮質線条体投射(corticostriatal projections)と視床⇒大脳皮質へ戻る経路である視床大脳皮質投射(thalamocortical projection)に分けることができます。

このループで修飾された情報は皮質核路や皮質脊髄路を経由して行動を制御します。つまり歩行開始や停止、障害物を避けるなど随意的運動過程に関与します。

 

その起始となる大脳皮質領野と大脳基底核からの投射をうける視床核など繊維連絡の違いにより、以下のように分類できます。

運動系ループ

このループは一次運動野からの指令による運動遂行から運動プログラムや運動準備などに関与します。

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そしてこの運動ループには体部位局在が存在することが知られています。

参考文献2より

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運動系ループ 体部位局在

それぞれ一次運動野から始まるループは運動遂行(運動量や運動速度)、

前頭前野・補足運動野からのループは運動プログラムや運動準備などに関与します。

 

眼球運動ループ

これは名前の通り、眼球運動に関与する経路です。

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黒質網様部⇒上丘への繊維投射はサッケード(saccade)と呼ばれる視野の中の物体に視線を向ける速い眼球運動の発現に関与することが言われているそうです。

そしてこの眼球運動ループが基底核による運動調整メカニズムの中で最も解析が進んでいるようで、この系におけるニューロン活動の動作原理が大脳皮質-基底核ループや基底核-脳幹系の機能を解明する上での基盤になっています。

 

前頭前野系ループ(prefrontal loop)

認知情報や記憶(特にworking memory)を有効に活用し、意志の発動や行動計画、注意、社会行動などの高次脳機能の発現に関与します。

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辺縁系ループ

前頭前野系ループと共に、認知情報の評価、情動や感情の表出、意欲などの高次脳機能や精神活動に関与します。

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側坐核について

腹側線条体(辺縁線条体)の一部で、報酬・快感・嗜癖・恐怖などに重要な役割を果たすと考えられています。側坐核は中心部(core)と周辺部(shell)に分けられます。辺縁系(偏桃体、海馬、視床下部、側頭葉など)からの興奮性入力や腹側被蓋野からのドーパミン作動性入力を受けています。

辺縁ループから運動系に入る経路が確認されており、情動系から運動系への入力の切り替えに役立っていると思われます。

 

以上が大脳皮質基底核ループになります。

そして次に基底核-脳幹系(basal ganglia-brainstem system)の話に移ります。

 

基底核-脳幹系(basal ganglia-brainstem system)

このルートは脳幹からの下行路を経由して運動を制御します。つまり歩行時のリズミカルな手足の動作や筋緊張の調節など随意運動に随伴する自動的(無意識的)運動過程に関与します。

上丘に投射されれば眼球運動、橋脚被蓋核領域に投射されれば筋緊張調整・歩行運動、延髄毛様体に投射されれば咀嚼運動・嚥下運動などの口腔顔面運動にそれぞれ関与します。

 

今回は例として自律歩行の中核を担う脚橋被蓋核でこのルートの説明をしたいと思います。

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基底核-脳幹系は末梢の運動ニューロンを抑制する働きをします。そして、淡蒼球内節・黒質網様部は中脳被蓋核の働きを後に詳述します直接路・間接路を使って調整します。PDを発症された方は調整能が低下するため、抑制が過剰に働いてしまい、運動症状を発現してしまいます。

 

次にネットワーク概念の説明に移っていきます。

直接路・間接路

皮質基底核ループの中の基底核内では、3つの経路を使って促通・・抑制の調整を行っています。

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3つの経路はハイパー脊髄路、直接路、間接路の順番に処理速度が速く、そのすべてが正常に機能することで十分に調整された運動が表出されます。

 

ストリオソーム・マトリックス構造

線条体ニューロンはストリオソーム(齧歯類ではパッチと呼ばれることが多い)とマトリックスという2つのコンパートメントに分かれています。それぞれの領域は次のような入出力系の特徴を持っています。

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皮質-基底核ループの中の辺縁系ループと同様に辺縁系皮質から始まっているループから運動系ループに加わる経路が存在しますから、情動系の働きが運動系に影響することが予想されます。

 

実際にはここに受容体や神経伝達物質なども加わり、より複雑な神経回路網が形成されていますが、また機会がある時に触れることにします。

 

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

 

参考文献

  1. 藤山文乃,金子武嗣, 大脳基底核の解剖, clinical neuroscience vol.25 , 2007 , p22-24
  2. 高草木薫, 大脳基底核の機能;パーキンソ,ン病との関連において, 日生誌 65, no.4-5, 2003, p113-129
  3. 高田昌彦, 大脳基底核の生理, 病態生理, clinical neuroscience vol.25 , 2007 , p25-27

 

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