神経難病のリハビリをする人の思考

主に神経難病領域を診療する理学療法士が自己学習した内容についてまとめているブログです。あくまで一個人の見解に過ぎないため、正確性は保証されません。新しく読んだ文献・書籍も紹介していきたいと思います。

ALS患者に対する加速度計を用いた新しい評価方法

こんにちは。

今回もALSに関する論文の紹介をします。

 

紹介するのは

”Ruben P.A. van Eijk , jaap N.E.Bakers,etc :  Accelerometry for remote monitoring of physical activity in amyotrophic lateral sclerosis: a longitudinal cohort study ; journal of neurology.2019"CC

です。

 

それではさっそく紹介させていただきます。

 

 

背景

 進行性で疲弊性を伴うALS患者は頻回な臨床評価や来院による負荷が大きく、患者の臨床試験への参加が制限されてしまいやすい。結果、患者の組み入れも選択的で、データの安全性や有効性が不明瞭となる問題が生じている。加えて患者間でかなり症状が多彩であるため、病状の進行の定量化が困難であった。

 そこで有効性の評価項目を遠隔でモニタリングすることへの関心が高まっている。遠隔でのモニタリングは通院外での情報収集を最大化し、通院負荷を減らすことができる。多くの研究でその実現可能性が明らかになっており、ALS患者の身体活動を遠隔のモニタリングでみることは安価で負担の少ない方法で客観的な計測を可能にする。

 しかし現在、ALS患者に加速度計を使用したデータはない。

目的

ALS患者の病状の進行を遠隔のモニタリングで評価する有効性を検証すること。

 

方法

患者はthe Treatment Research Initiative to Cure ALS (TRICALS) databaseより組み入れた。患者はALS、PMA、PLSといったMNDスペクトラムの診断を受けている以外の適合基準は設けなかった。

 患者にはActiGraph GT9X Link(ActiGraph LLC,Pensacola,FL)が送付された。これを右臀部の前腋窩線上に7日間起きている時間に装着した。また装着時間の記録とALSFRS-R、HADSについて聴取された。2-3か月ごとに最大7回の計測が行われた。一日当たりの平均的な活動を正確に推測するため、8時間未満の日のデータは解析から除外した。

 データ量が膨大であるため、①%active,②MET score,③daily VM,④daily A1に要約したた。前・横・垂直方向の三軸データの2乗和の平方根によるベクトルの大きさにて活動回数を算出した。①は活動回数が1分あたり100回超えたものを数えた際の比率で推測した。②はベクトルの大きさのカウントをMETの推測値に変換し、1日の平均METスコアを算出してまとめた。①、②は実際行った患者の1日における平均活動を反映している。③は平均×ベクトルの大きさの標準偏差で算出した。④は抗重力運動など垂直軸の動きのばらつきに基づくデータを評価した。

 サンプルサイズは0.60%/月低下、検出力90%、α値5%で仮定すると34名が必要となった。死亡またはドロップアウトを10~20%想定して、42名の患者を組み入れた。
 Linear Mixed-Effects(LME) modelで各データの減少率を検証した。減少率のばらつきを定量化するために変動係数の計算を行った。身体活動と疾患特異的臨床マーカー(ALSFRS-R or King stage)の縦断的な相関をpeason'sの相関係数で求めた。

 

結果

 2016年10月7日~2018年11月1日の間で、42名の患者が今回の前向きコホート研究に参加した。トータルのフォローアップ期間は503.2か月で各患者の観察期間の平均は12か月であった(四分位範囲:5.9~18.1)。平均の計測回数は4.9回であった。15名の患者がフォローアップ期間中に亡くなった(18か月生存率は71.5%,CI58.4~87.4%)。負担なしを0、最大を10とした時のActiGraph装着負担感は平均1.3であった(95%CI0.7~1.9、範囲0~7)。結果、合計694回、9288時間のモニタリング期間の解析ができ、それは13.4時間/日であった。8時間以上装着することができたアドヒアランスは93%と高い値であった。

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対象者の基本属性

 
 加速度計によるベースラインのデータより、患者はアクティブに活動している時間または臥床していない時間が27.9%あり、患者間変動は11.6~52.4%であった。ActiGraph、ALSFRS-Rともに経時的にかなり減少する傾向があるが、ALSFRS-Rは0.59ポイント(95%CI 0.39-0.80)、アクティブな活動時間は0.64%(95%CI 0.43-0.86)の低下が認められた。患者間の変動係数はいずれのアウトカムでも高かったが、ALSFRS-Rより加速度計によるデータの方がその値がより小さかった(0.64-0.81 vs. 1.06)。
 ALSFRS-Rと加速度計によるデータの相関を調べた結果、METスコアは最も相関性が低く(r=0.57,95%CI 0.43-0.71)、A1が示す抗重力活動のような垂直軸の変動が最も強い相関が認められた(r=0.78,95%CI 0.63-0.92)。日々のVMとの相関はr=0.75(95%CI 0.59-0.92)であった。ALSFRS-RとA1の相関関係は主にALSFRS-Rの運動領域の項目(4-9)が寄与していた(全体r=0.83,球麻痺r=0.69,微細運動r=0.75,粗大運動r=0.74,呼吸領域r=0.55)。King's ALS staging algorithmによる臨床ステージも似た関係性を示した。

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フォローアップ期間中の変化率

結論

 加速度計によるデータの方がより疾患の進行を正確に反映できる可能性がある。そして、加速度計は高いアドヒアランス率があり、ただサンプルサイズを減らすだけでなく自宅から臨床試験に参加できる機会を患者に提供することができるため、臨床試験デザインを改善する潜在性を秘めている。にもかかわらず現在は規制のハードルにより、主要な臨床試験で頻繁に使われる状態ではない。デジタルデータが医療現場の中で計測される古典的な評価項目に代わる確固たるものになるよう、今後もさらなる知見を得る必要がある。

 加速度計による評価項目でも特にVMとA1は%activeやMETと比較して臨床試験により適していることが示唆された。加速度計の示すデータのそれぞれが患者のどの行動を反映しているのか、どのような可能なことを反映しているのか、という点を見分けることが重要である。そして加速度計における評価項目は文化や生活様式、モチベーションなどによって大きく変動する性質がある。その中でもVMやA1は変動性が少なく、病気の進行の違いを検出する感度を高めることができる。

 限界としてhawthorne effectという観察されていることを意識することによる行動変容の可能性があり、結果としてバイアスがかかってしまうことが挙げられる。

 

臨床応用・さらなる研究へ

運動療法や患者指導による有効性をより簡便かつ客観的に評価できる感度を担保できる可能性がある。

・患者指導の際により詳細に患者の身体機能を生活に直結した形で評価して、指導に生かせる可能性がある。

 

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

 

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