神経難病のリハビリをする人の思考

主に神経難病領域を診療する理学療法士が自己学習した内容についてまとめているブログです。あくまで一個人の見解に過ぎないため、正確性は保証されません。新しく読んだ文献・書籍も紹介していきたいと思います。

ALS患者の胃瘻を作るタイミング・条件を医学的目線で考える

ALS患者になると直面する問題、胃瘻造設をどうするか?

少し整理して考えました。

 

ALS患者は遅かれ早かれ、経口での栄養摂取が困難となります。

そのため胃瘻造設について考えなくてはなりませんが、麻酔を使用した手術になるために呼吸不全が進行してからでは作成自体が難しくなるということで、早めの決断を迫られるケースがたびたびあります。

 

ですがお腹に穴を空ける決断をすることは容易ではなく、少なからず身体を傷つける恐怖やALSという病気と向き合い続ける覚悟を持つ恐怖・悩みと向き合わなければなりません。

 

参考になるかわかりませんが、PTとしても胃瘻の相談を受けることが多いので考えてみました。

 

1.胃瘻とは

まずは胃瘻(いろう)とは、胃と体表面が通じた瘻孔、つまり穴のことを指します。

よく”ペグ”とも呼びますが、これは正式には内視鏡を用いた術式の名称で「経皮内視鏡的胃瘻増設術(PEG:percutaneous endoscopic gastrostomy)」のことを指します。胃瘻自体を指す言葉ではありません。余談ですが。

 

そんな胃瘻ですが、これを治療と称するか、延命治療を称するか。

医療の世界ではこれを疾患修飾治療、つまり治療として見ている方が多いと思います。ここは患者さんサイドとの捉え方の違いかもしれません。

 

2.胃瘻のメリット・デメリット

胃瘻による高エネルギー療法が生命予後を改善させたとする報告がいくつかあります(1~4。

 

神経保護作用も相まって生命予後を改善させることができるということが最大のメリットと言えます。

 

デメリットとしてはその侵襲ゆえに疼痛はありますが、これは個人差あるものの消失する方も多いです。定期的なチューブの交換や水疱形成などで痛みが出る方もいるため、医学的管理は多少なりとも必要になってしまうこともデメリットと言えるかもしれません。

PTの目線では腹圧が低下するために腹部が突出した姿勢となり、体幹周囲での姿勢支持が多少なりとも難しくなる症例を経験します。

 

3.タイミング

そしてタイミングについてです。箇条書きでまとめました。

    1. 食事形態等の調整をしても栄養管理や水分管理が困難になる前
    2. 体重が10%以上減少する前
    3. 食事により患者・介護者の疲労が強くなる前
    4. 嚥下障害の自覚症状:食事量の減少、食事時間の延長、むせ
 5.嚥下造影・嚥下内視鏡による異常所見:送り込み不良、梨状窩への貯留など

ここでポイントは誤嚥(食事が気管に入るようになる)してからでは遅いということです。

そして米国のガイドラインでは努力肺活量50%切る前になるべく早く行うことが推奨されています。

bokudaらの報告では、
 胃瘻増設時PaCO₂>40mmHg、%FVC<38%の患者では予後不良ということで、嚥下障害が軽度でも軽度のPaCO₂上昇傾向がある場合はPEGを推奨することが挙げられています。

 

4.人工呼吸器装着との考え方の違い

個人的には胃瘻作成=延命とはあまり考えておりません。もちろんこの点は個人の価値観に基づくものなので正解はありません。

ただ人工呼吸器の装着をどうするかを考えるのとは、分けて考える必要があります。

胃瘻は作成してもすぐに使用しなくてはならないものではありません。

むしろ薬は胃瘻、食事は経口と分けて利用することもできます。

 

人工呼吸器は着用すると基本的に外すことが難しいです(外すためには倫理的要件を満たす必要があり、医師がためらうことが多いためと思われます)。

それゆえに最初は疾患修飾治療の側面があったとしても、途中から延命治療としての側面が強くなってしまうのではないかと思います。

 

5.まとめ

結論として

・神経保護作用等から生命予後の改善が得られる。

・めんどくさい内服等は胃瘻、おいしいものは経口と分けられる。

・早期作成するデメリットはなし。

・デメリットは疼痛や医学的管理が必要であること。

・呼吸不全や嚥下障害が悪化してからでは、手遅れなケースも。

 

上記を参考にしつつ、あとは個々の価値観・人生観に基づいて決断をしていただければと思います。

参考になれば、幸いです。

 

参考文献

  1. Luc dupuis, hugues oudart, frederique rene, etc.Evidence for defective energy homeostasis in amyotrophic lateral sclerosis: Benefit of a high-energy diet in a transgenic mouse model.PNAS101(30),2004
  2. Wills AM, Hubbard J, Macklin EA et al : Hypercaloric enteral nutrition in patients with amyotrophic lateral sclerosis : a randomised, doubleblind, placebocontrolled phase 2 trial. Lancet 383 : 20652072, 2014 35
  3. Ludolph AC, Dorst J, Dreyhaupt J et al : Effect of highcaloric nutrition on survival in amyotrophic lateral sclerosis. Ann Neurol 87 : 206216, 2020 36
  4. Dorst J, Schuster J, Dreyhaupt J et al : Effect of highcaloric nutrition on serum neurofilament light chain levels in amyotrophic lateral sclerosis. J Neurol Neurosurg Psychiatry 91 : 10071009, 2020

 

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