神経難病のリハビリをする人の思考

主に神経難病領域を診療する理学療法士が自己学習した内容についてまとめているブログです。あくまで一個人の見解に過ぎないため、正確性は保証されません。新しく読んだ文献・書籍も紹介していきたいと思います。

顔面神経麻痺に対するリハビリテーション

 

こんにちは!

今回は顔面神経麻痺に対するリハビリテーションについてまとめていきたいと思います。

新人の頃に急ピッチでまとめた資料で、主に国内誌の内容をメインにまとめたものになるので、海外誌なんかも目を通したほうがいいと思うのですが…

 

その気力はないので、今回はそのまま記事にしていきます(笑)。

 

それでは始めます!

 

 

顔面神経麻痺って?

そもそも関わりや見たことない人はいまいちピンとこないと思います。

wikipediaには以下のように書かれています。

 

顔面神経の麻痺により障害側の顔面筋のコントロールが効かなくなること。

 

まあ、そのままですね。

 

原因はいっぱいありますが、有名なものではベル麻痺(片側性末梢性顔面神経麻痺)というものがあります。

原因は不明だそうですが、1型単純ヘルペスウイルスの感染により顔面神経が炎症・腫脹することが原因ではないか?と言われています。

ベル麻痺については年間20人/10万人(加齢により増加)程度と多くはありませんが、報告があります。

他にも原因として…

分類

原因疾患

末梢性

突発性

Bell麻痺、反復・交代性麻痺

耳炎性

急性中耳炎、慢性中耳炎(特に真珠性中耳炎)、中耳結核、壊死性外耳炎

感染性

ウイルス性

Hunt症候群、bell麻痺、ポリオ、伝染性単核球症、水痘、流行性耳下腺炎、脳幹脳炎、多発性神経炎、HIV感染症

細菌性

髄膜炎ハンセン病破傷風ジフテリア、梅毒、Lyme病、猫引っ掻き病

外傷性

側頭骨骨折、顔面外傷、周産期外傷

手術損傷性

小脳橋角部、内耳道内の手術、中耳手術、耳下腺手術、顎下腺手術

腫瘍性

小脳性橋角部腫瘍、顔面神経髄鞘、中耳癌、耳下腺腫瘍、白血病

全身疾患性

糖尿病、サルコイドーシス(Heerfordt症候群)、重症筋無力症、膠原病、Wegener肉芽腫、甲状腺機能低下症

神経疾患性

多発性硬化症筋萎縮性側索硬化症、Guillan-Barre症候群、fisher症候群、球麻痺

先天性

サリドマイド症、Treacher-Collins症候群(顔面下顎形成不全)、口角下制筋形成不全

その他

Melkersson-Rosenthal症候群

中枢性

脳血管障害性

脳出血クモ膜下出血脳梗塞、Wallenberg症候群、Millard-Gubler症候群

腫瘍性

グリオーマ

先天性

Mobius症候群(橋延髄形成不全)

とたくさん挙げられます。

ついでに自分は脳梗塞の方で経験をしました。

 

顔面神経・顔面筋の解剖

まずは顔面神経について簡単にまとめていきたいと思います。

  • 第Ⅶ脳神経
  • 神経束構造をとらない。
  • 第Ⅴ脳神経(三叉神経)と走行が似ている。
  • 運動・感覚・自律神経の働きを有している。

    運動神経 ⇒ 表情筋運動

    感覚神経 ⇒ 味覚(舌前2/3)

    副交感神経:涙と唾液の分泌(涙腺、顎下腺、舌下腺)

 

 

このあたりが基本的な解剖学にあたる内容になるかと思います。

さらにちょっと踏み込んでいきます。

 

大脳皮質~顔面神経核に至る経路を核上性経路と呼びます。

 

核上性経路(2

大脳皮質中心前回下方 → 内包 → 大脳脚 → 対側の顔面神経核(一部は同側)

 

そして顔面神経核の上部表情筋を支配する部分は両側の皮質核路の支配を受けますが、

下部表情筋を支配する部分は反対側の皮質核路のみに支配されるという違いがあります。

 

 

次に顔面筋についても触れていきたいと思います。

  • 顔面の浅層にあり、主として頭蓋骨から起こって皮膚につく、いわゆる皮筋
  • 収縮によって顔面の皮膚を動かし、皮膚にしわやくぼみをつくったりする。このような筋の運動によって表情の発現が行われるので、筋は表情筋ともいわれる。
  • 筋紡錘やgolgi腱器官がないとされている。

個々の顔面筋に関する解剖については、割愛させていただきます。

 

診断・評価

次に診断やよく使われる評価法について、いくつか紹介していきます。

柳原法

  • 日本顔面神経学会が推奨する評価法。
  • 安静時の左右対称性と表情運動を評価。
  • 4点(ほぼ正常)、2点(部分麻痺)、0点(高度麻痺)の3段階で評価するのが基本。

  (微妙な場合は3点、1点を採用することもあるが、計算が簡便になることや検者間

   の誤差を減らすために基本は偶数点)

  • 40点満点

  • 22/40点以上→軽度、12~20点→中等度、10点以下→重症

  • 病初期に予後予測が可能

  • 欠点として病的共同運動が点数に反映されない。

※病的共同運動とは(7

 顔面神経が側頭骨内の神経管内にて神経束構造を取らないため、過誤再生により迷入再生繊維が眼輪筋と口輪筋といった離れた部位の筋の共同運動を引き起こすこと。

モルモットを用いた基礎研究にて脊髄内と外それぞれで顔面神経をクランプすることで脊髄内をクランプした群で神経線維の迷入再生による神経過誤支配と病的共同運動が見られたことが報告されています(8

Ex)閉眼時に口角の外転や鼻唇溝の深化を認める、口笛を吹いた時に眼裂狭小化、額のしわ寄せ時に眼裂狭小化および口角外転するなどetc…20

 

この病的共同運動は顔面神経麻痺を治療する上では、大事なポイントになるのでよく抑えておく必要があります!!

 

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柳原40点法

 

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柳原40点法でみた重症度別治癒率

House-brackmann

病的共同運動を含めた表情筋運動を6段階に分類評価する方法

欠点

運動時や安静時の対称性、病的共同運動など各項目のgradeが必ずしも一致しない

・bell麻痺やhunt症候群の非治癒例、顔面神経麻痺再建術後においては大部分が

gradeⅢorⅣの2段階に評価

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House-brackmann法

Sunnybrook法

  • 1996年にRossらにより発表された顔面神経麻痺評価法の1つ。
  • 5つの顔面の動きを各20点、合計100点で評価した後、その点数から安静時対称性・各動きによる病的共同運動をそれぞれ20点、15点満点で評価して引くことで表情筋運動と病的共同運動を総合的に評価する方法
  • 治療の効果判定に有効

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sunnybrook法

それぞれ特色があるので、特に赤字で強調した特徴・欠点をみて、使用する評価法を決定するとよいと思います。

評価自体にそれほど時間を要さないので、一応自分は3つ全て使って評価をしていましたが…。

 

リハビリテーション

次に本題のリハビリテーションについて触れていきたいと思います。

リハ適応基準

  • 柳原法 20/40点以下
  • Electroneurography(ENoG):誘発筋電図 40%以下

  これが最も信頼性の高い評価法。

その他、補助的に…

  • NET(nerve excitability test):神経興奮性検査 = 3.5mA以上
  • MST(maximun stimulation test)

などを使用する報告もありました。

リハ開始基準

  • できるだけ早期、できれば発症2ヶ月以内が望ましいとされています(12

一応根拠として…

  • 飴矢らにより2ヶ月以内の介入で顔面拘縮の86%の予防、病的共同運動72%の抑制ができたという報告が一つ。
  • 中村らの報告(13では病的共同運動が発症3~4か月で発症することより、遅くとも発症3ヶ月でバイオフィードバック療法を開始するべきと報告しています(同時に病的共同運動が1年で完成することから少なくとも1年間続けるべきとも報告)。

リハの意義

以下の3つが大事になります。

  1. 顔面筋拘縮の予防・軽減
  2. 病的共同運動の予防・軽減
  3. 顔面筋の筋再教育

リハ介入

ベル麻痺に対する理学療法の効果を検索したレビューがあり、それによると…

顔面筋への訓練は主として中等度の麻痺および慢性期の症例において改善を認める。

早期の訓練も急性期の回復を促進し、長期的な麻痺の改善が得られる可能性があるが、

どのような介入が適切、また不適切なのかについては、更なる研究が必要(18

と書いてあります。

先ほどは可能な限り早期の介入をしたほうが良い、と書きましたが、慢性期の症例でも改善する可能性があるという点で意義深い報告だと思います。

 

では実際の介入についても触れていきますね。

 

顔面筋マッサージ・ストレッチ

これらの介入について、

・早期より行ったほうがよい(10

・顔面拘縮予防目的で行われ、結果として筋力発現につながる(14

・顔面筋は日常生活(話す・食べるなど)で頻回に使われることがあるため、頻回にストレッチをする必要がある。そのため、自主トレとして指導する(9

 

といったことが言われており、その有用性が示唆されています。

が、これらはあくまで経験則的に語られていることが多く、根拠に乏しい現状があります。

 

とはいっても一応報告はいくつかあったので、紹介します。

  • リハ未介入群とリハ介入群(随意運動群・マッサージ群)を比較した報告によると…

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リハ未介入群のsunnybrook法の共同点の推移

未介入群では32週をピークに点数の減少を認め、これは中等度・重度の麻痺患者どちらでも同様の傾向だったとのことです。

一方で介入群はと言いますと、

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リハ介入群におけるsunnybrook法の共同点の推移

マッサージ群・随意運動群のそれぞれの群は、ともに経過とともに比例して点数の改善を認めていますが、特にマッサージ群で大きく改善しています。

 

 もうひとつ紹介します。

 

  • 中等度以上の顔面神経麻痺のある患者(ENoG=0~30%)に対し、強力な随意運動を行った群と比較して、表情筋マッサージ(+眼瞼挙筋による開眼運動も)を行った群では介入6ヶ月以降にsunnybrook法の安静時対称点および病的共同運動点が有意に改善しており、随意運動点と複合点についても1年後に有意に改善が得られていた14

ただ、強力な随意運動が顔面拘縮および病的共同運動を引き起こす可能性もあるため、マッサージがよかったというより、強力な随意運動がよくなかった?という考えもあるかもしれません。

 

高いエビデンスはないですが、現時点では拘縮予防には最も有効な手段の一つであると思われ、顔面神経麻痺のリハビリテーションにおいて重要な柱の一つになる治療法と言えます。

 

温熱療法(9

これに関しても、あまり科学的な検証はされていません。

一応、伝統的にはこのように使われているようです。

  • 顔面拘縮を予防する一環として使われてもよいとしている。
  • 顔面筋のストレッチ・マッサージと合わせて使われる。
  • 寒冷療法を使用している報告もあるが…基本的にはNG

ただし…

温熱療法により熱ショックタンパク質の発現が促され、筋力upにつながるという有名な基礎研究もありますので21有害事象も報告されていないですし、熱傷に気を付けさえすれば試してみる価値はあり?

 

 バイオフィードバック療法

筋電図を使用して視覚的・聴覚的にフィードバックするパターンと、鏡を利用してフィードバックするパターンと二つあります。

両方とも有効であるとする報告が多く、筋電図利用の方でより筋活動が大きく得られやすいという報告もありますが(15、治療法間で有意差はなしとする報告もあります(16

眼周囲筋へのアプローチには筋電図を用いた聴覚的フィードバックが使われていました(17

 

CI療法(Constraint-Induced Movement Therapy)

CI療法といえば、

非麻痺側上肢を拘束し、麻痺側上肢を段階的に訓練すること(shaping)により、機能回復をはかる方法

で有名ですね。

 

顔面神経麻痺で応用された報告があります。

・中枢性顔面神経麻痺 (22

・聴神経腫瘍術後の顔面神経麻痺22~24

・脳幹梗塞後の末梢性顔面神経麻痺25

に対して、少数例施行された報告があり。

共通しているのは…

  • いずれも病的共同運動なく、顔面神経麻痺スケールの向上を認める。

聴神経腫瘍術後の顔面神経に限って言えば、

  • 中等度~重度の顔面神経麻痺患者に対して施行すると、重症度に関係なく改善が認められ、当初の重症度の差はなくなるとしている。

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CI療法施行方法

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CI療法施行方法

 

病的共同運動を抑制するには検討に値する治療法だと思います。

しかし健側に触れ続けることで健側三叉神経からの入力が増加することで健側顔面筋

の活動が促通されてしまい、結果として麻痺側の収縮は抑制される可能性があるのでは?と個人的に勝手に考えています(見出し:三叉神経からのアプローチを参照)。

 

ボツリヌス療法

リハビリと併用して使用することで効果が認められるとしている。

眼瞼挙上筋には禁忌、その他の筋肉に対して1.5~2単位使用されることが多い。

定期的に使用する必要がある。

 

三叉神経からのアプローチ

これに関しては全く根拠がありません。

個人的に自分が考えていた妄想です(笑)

なので興味のある人だけが、参考までに読んでもらえればと思います。

 

まずはある報告を紹介します。

それは顔面神経麻痺患者の瞬目反射について検討した報告ですが、

顔面神経麻痺のある患者では、R1(刺激側に出現する10msで出現する眼輪筋の収縮)の消失や健側での代償的な出現、R2(両側に出現する30msで出現する眼輪筋の収縮)の慣れの消失が報告されています(26

→健側での代償的な出現について顔面神経核の過剰興奮が指摘されており、これらより眼輪筋の運動分離不全も報告されています。

R1…三叉神経~顔面神経の乏シナプス構造により発現

R2…三叉神経~延髄外側毛様体~顔面神経核の多シナプス構造により発現

つまり、健側の顔面神経核の過剰興奮により健側の顔面筋の過剰収縮が促進され、患側の顔面筋の正しい収縮が促されないことが指摘されています。

 

そんな顔面神経核は反対側大脳半球により促通され、三叉神経脊髄路と外側毛様体

を連絡する三叉神経脊髄路核は同側大脳半球により抑制されます(28

 

ここで三叉神経の話に変わります。

三叉神経脊髄路核は温痛覚・粗大触圧覚を伝えるニューロンから信号を受けていて、延髄まで頚髄まで縦に広がっており、その後に毛様体の横を走行して正中で交差した後に腹側三叉視床路を通って視床のVPM核に入ります。

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三叉神経と対側大脳皮質への経路

 

 

そして三叉神経は顔面神経核と連絡経路を結ぶことを明らかになっています。

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三叉神経と顔面神経の経路

健側の顔面筋を優位に使用してしまうことで、患側の三叉神経は抑制されてしまい、患側顔面からの感覚入力は低下してしまいます。そして患側への意識や身体図式は低下してしまい、ますます健側優位の顔面筋収縮が促通されてしまいます。

 

よって患側顔面に積極的に触れつつ、随意的に動かす(例えば麻痺側顔面筋を自身の手でアシストしながら、自動介助運動させるなど)ことにより、健側顔面筋の過剰な収縮を抑制できる可能性があるのではないかと考えています。

また健側顔面に触れる事により、三叉神経より対側大脳皮質や同側顔面神経核へと感覚情報が入力、健側の顔面神経核を促通させてしまう可能性も考えられます(促通系の入力であれば、ですが)。

 

以上、というのが私の妄想です。

 

だいぶ長くなった割にはあまり実のある話はできませんでしたが、顔面神経麻痺を診療する機会のある専門家は限定的で、それゆえ経験則で行われていることが多いのではないかと思います。

今後、もっと科学的検証がされるようになると、また新しい治療法というのも出てくるのではないかと思います。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

 

 

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