神経難病のリハビリをする人の思考

主に神経難病領域を診療する理学療法士が自己学習した内容についてまとめているブログです。あくまで一個人の見解に過ぎないため、正確性は保証されません。新しく読んだ文献・書籍も紹介していきたいと思います。

duchenne型筋ジストロフィーの脊柱側彎

こんにちは!

最初に投稿する記事に悩んでいたら、日付がだいぶ経ってしまいました…

 

最初の記事はduchenne型筋ジストロフィー(以下、DMD)に必発する変形・拘縮について、以前に自分が学んだことを整理しながらお話していこうかと思います。

 

と言っても、なかなか臨床では見かけない疾患ではあると思うので、内容としてはコアなものになります。

 

 

 

まずはDMDという疾患の簡単な概要から説明します。

 

筋ジストロフィーとは?

 

筋ジストロフィーとは「遺伝子異常を原因として骨格筋の壊死・再生を起こす筋疾患の総称」を指します。

その中でもDMDは最も多いタイプで、小児で発症する筋ジストロフィーになります。

 

主症状は大きく3つに分けられます。

・骨格筋の筋力低下および日常生活能力(ADL)の制限

・心機能低下

・呼吸筋力低下

 

現在世界中で様々な新薬が開発されていますが、完治させる治療法はいまだに見つかっていません。

 

そんなDMDの治療として、リハビリテーション(以下、リハ)はとても大きな役割を担っています。

その大きな柱として挙げられるのが、今回のテーマである変形・拘縮です。

特によく触れられるポイントは脊柱側彎です。

 

 

脊柱側彎

ご存知の方も多いと思いますが、実際このような側彎を呈します。

 

 

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参考文献1より

 

このような脊柱側彎により…(2

  • 障害されたシーティングと体幹バランス
  • 呼吸障害(胸郭拡張障害、無気肺など)
  • 気道変形 ⇒ 気切した際に気管腕頭動脈瘻のリスクが高まる
  • 腰痛やしびれ、不快感
  • ADL,QOLの低下
  • 美容的観点から見た際の外観の損ない

Etc…

など様々な問題が生じます。

 

この脊柱変形、基本的に必発し避けられないものなので、理学療法としてはいかに良好な変形・拘縮につなげていけるかがポイントになっていきます。

 

脊柱変形に影響を及ぼす因子を報告されている内容から一部抜粋すると(2,3

  • 筋肉の弱化
  • バランスや筋緊張、筋力の対称性
  • 思春期の成長スパートと骨格成熟
  • 非対称的立位
  • 下肢屈曲拘縮の非対称性
  • 骨盤傾斜と長時間の車いす使用
  • 利き手
  • 脊柱カーブの大きさや凸と部位

と、多岐に渡ります。

ただ、いずれの因子についてもランダム化コントロール研究にて因果関係について確立されているわけではないので、賛否両論はあります。

 

そういった因子を受けてDMDではどうして変形・拘縮が発生してしまうのかを考えると、このような図にまとめることができます。

 

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説明すると、年齢が上がるごとに徐々に筋肉の壊死速度が再生速度を上回っていくので、筋肉の脂肪置換・結合組織化が進行していく。

つまり筋肉が伸びなくなってきます。

そこに姿勢の左右差が出現すると、

より伸びにくい側の筋肉が出現するようになり

骨盤や脊柱が曲がっていくことにつながっていくと思われます。

さらに成長期では骨の成長が見込まれる時期ですが、より伸びにくい筋肉のある側では骨の成長も制限されていくことが予想されます。

結果、脊柱は伸びにくい片方は成長が制限されるので椎体がつぶれた形となり、

いわゆる側彎・脊柱変形というものが完成していく、、、

 

という流れが想定できるわけです。

 

実際に側彎の進行はDMD男児の90%以上で歩行喪失後に生じることが報告されており、13歳あるいは車いす依存後1~2年で急激に増悪すると言われています(2

Shpiroらの報告によると、ステロイドを使用していないDMD患者で車いす乗車期間に比例して側彎が重度になることが示唆されています(4

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また筋力低下についても、中部腰椎レベルでの脊柱起立筋弱化している側を凹側にして脊柱側彎生じやすいことが報告されています。

 

DMDの側彎を考える上で一つ重要な研究があるので、ここで紹介します。

Gibson・wilkinsによるDMD患者62名の脊柱変形を調査した研究なのですが、

これは脊柱のタイプを5つに分類し、脊柱変形の少ないタイプ・大きいタイプに分けて論述しています(5,6

 

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この研究によると、cobb角35°以内に留まる安定したⅠ群(groupⅤ)が23%存在すると報告しています。国内でも野島らによる43名のDMD患者を対象にした研究でやはり23%がgroupⅤに分類されることを報告しています(7

 

ではこれらの違いは何か?というと、脊柱の前後彎にあります。

 

Gibson,wilkinsらによるとgroupⅠの脊柱変形の少ない段階から、

・後彎が進み重度の脊柱変形に向かう場合(unstable pathway)と、

・後彎が見られず脊柱変形の少ないgroupⅤに向かうstable pathway

                          があると報告しています。

後弯の見られないgroupⅤで側彎が少ない要因は脊柱伸展位での椎間関節におけるfacet lockingによるものと考えられており、

(下図のように伸展していると椎間関節の接合部分が増えて側方・回旋方向への安定性が認められるようになります)

加えてさらに変性した筋を含むposterior elementの拘縮がこれを強化していると推測されています。

 

なので年単位にわたって「伸展位」を生活の中に定着させていく必要があるということです。

 

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Dublin physiotherapy clinic HPより

 

先ほども紹介しましたshapiroらの研究では前後彎と側彎についての検討も行っており、後彎位にあるDMD患者の方が側彎度が高いことを示唆する報告をしており、上記の内容を支持する結果が得られています(4

 

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脊柱側彎に対するリハビリテーション

と、脊柱側彎の因子にまで触れてきたところで、次は実際どんな介入がよいのか?というお話に移ります。

 

と言っても、いわゆるrandomized controlled trial(RCT)などの研究は少なく、

Evidence Based Medicine(EBM)の観点からすると、どれも強く推奨できるものはありません。

が、多くの非ランダム化研究では側彎の重症度と発生率の減少を報告していますので、

正しい評価の下で行うことで有効性はある可能性はあります。

 

具体的な介入について、箇条書きにするとこんなところになると思います。

・ROMex

・装具療法(下肢装具・体幹装具)

・立位練習

・シーティング

シーティングについては長くなるので、今回は割愛します。

 

上記にも記した通り、歩行不能になってから側彎の急激な進行が認められることが多い

ので、最初はやはりできる限り立位・歩行機能を維持すること

側彎を予防するための第一戦略と言えると思います。

 

歩行不能の原因について、

一般的にはDMDの進行による筋力低下が大きな原因と考えられがちですが、

実際は一概にそうとは言えないようです。

 

足関節と機能低下の関係について検討した報告がいくつかあります。

North star anbulation association(NSAA)というDMDの立位機能を特異的に評価する指標

を用いて検討した報告では、足関節背屈制限と比例してNSAAの値も低下していたこと

を報告しています(8

また本邦での研究にて、膝屈筋のMMTグレードの他に股関節・膝関節伸展のROMが

歩行不能の独立した予測因子として同定されたことを報告しています(9

 

つまり、足関節や股関節屈曲拘縮を可能な限り抑制していくことが、より長期の立位・歩行機能の維持につながると考えられます。

 

立位練習

そこでまずは立位練習について触れていきます。

立位練習の時は長下肢装具(Knee Ankle Foot Orthosis: KAFO)を使用することが多いです。

用いられる理由としては下肢屈曲拘縮や筋力低下のため、立位保持が困難になることが

挙げられます。

立位姿勢は下肢・体幹を伸展位とできる姿勢のため、下肢屈曲拘縮予防には有効と考えられます。

 

長下肢装具の効果について、

歩行喪失後のDMD児の側弯症の発生率・重症度について検討した報告によると、

歩行不能後も装具歩行を継続した群では側弯症の進行が軽度であったことを報告しています(10,11

 

また長下肢装具について2000年にシステマティックレビューが発表されていますが、

そこでは立位保持期間の延長の可能性のみが示唆されており、歩行機能の延長や側弯症

の予防効果についてまでは言及されておりませんでした。

 

いずれにしても長下肢装具を使った立位練習については、肯定的な報告も多いので行っていく価値はあると思います。

また長下肢装具による立位にこだわらなくても、病院のリハ室であれば起立台を使用する方法もあります。

 

最近は電動車いすがたくさん世に出るようになり、立位練習に執着するよりは車いす

自由に動き回ることがQOLに直結するという考え方が主流になりつつあると思われます

が…

 

ついでに使用するKAFOは用途によって使い分けもあるようです。

参考文献12にちょっと記載がありますので、興味あれば参照してみてください。

 

ストレッチについて

歩行不能期にあるDMD児で優位に下肢屈曲拘縮が進んでいることを指摘する一方で、

足関節底屈拘縮は歩行期から認めることを報告しています。

また下肢のストレッチのみでは歩行期・歩行不能期問わず、十分な拘縮予防効果はない

ことも示唆しています(13

なので、可能であればやはり装具療法やその他の治療法についても組み合わせていく

ことが大事と思われます。

 

装具療法

装具療法についてDMDで使用されることが多いものは、下肢装具と体幹装具の2種類

だと思います。

さらに下肢装具についてはいわゆる短下肢装具(Ankle Foot Orthosis:AFO)と KAFO

がそれぞれ使用されます。

KAFOについては起立練習の項目でお話したので、割愛しますね。

 短下肢装具(Ankle Foot Orthosis:AFO)

AFOについても賛否両論ありますが、

歩行期にあるDMD児に対し、日中~夜間ずっと装着した群で足関節背屈可動域・股関節

屈曲可動域制限の進行抑制効果とともに歩行速度や歩行における運動学的パラメーター

の改善を認めたとする報告があります(14

夜間のみ装着している群では機能改善は認められなかったとする報告もあり(15可動域

制限の進行抑制効果を目指すのであれば一日中装着する必要があると思われます。

ただ一日装着するとなると、蒸れや痛み、睡眠障害などなども出現しますから、

その点は十分に理解して頂いた上で、工夫をして使用することが大事だと思います。

 

体幹装具

体幹装具はいわゆるコルセットというもので、硬性・軟性と2種類あります。

ただ成長期に装着するとなると体型がかなり変化しやすいので、

硬性コルセットなど採型が必要なものはすぐに不適合となりやすく、

あまり使用はオススメできません。

というより、そもそも良肢位をとりながら採型すること自体が非常に難しい

言われています。見栄えも悪いですしね。

かといって軟性コルセットでは姿勢矯正能力は不十分で、

側彎抑制効果は少ないと言われています(16

ADL上、姿勢保持がしやすくなるなどのメリットがあれば、

使用を検討してもよいかもしれません。

その時はシーティングも同時に検討して、車いす上での姿勢を良肢位に保てるように

配慮していくとよいと思います。

 

 

本邦でDMD児の側彎に対する取り組みを報告した研究があります。

比較的参考にしやすい論文なので、紹介しておきます。

湊純,湊治郎,湊正美:デュシェンヌ型筋ジストロフィーの脊柱管理 ―脊柱の伸展位誘導の試み―:リハビリテーション医学43(7),2006

 

 ステロイド

一応ステロイド使用についても少し触れておきますね。

腹直筋や内腹斜筋などの筋力低下や成長スパート抑制効果のため、

側彎の遅延・軽減効果の可能性が指摘されていますが、

エビデンスとしては確立されておらず、機序についても明らかにはなっていません。

 

が、少なからず抑制効果がある可能性を示唆する報告もいくつかあります。

 

ステロイド療法について後方視的に検討を行った報告によると、

プレドニンを0.5ml/kg/日の隔日投与を行っていた使用群は非使用群と比較して

歩行機能喪失年齢や脊柱変形の発生率に有意差は認めませんでしたが、

複数の脊柱変形は全く認めず、またcobb角は優位に軽症であったとしています。

また少量でも脊柱変形への抑制効果が認められ、どうやら歩行能だけではなく体幹筋力

保持などの他の要素が脊椎変形予防効果に影響を及ぼしているのではないか?

と結論づけています(17

 

もう一つ、ステロイド療法に関する後方視的な研究でも、3年程度の歩行期間延長効果

とともに側弯症の有病率が有意に低下していたことを報告しています(18

 

また前方視的に検討を行った報告として、

非ランダム化比較試験にてステロイド療法(デフラザコート)を行った群30名と

行わなかった群24名を比較した結果、

15年のフォローアップの中で非実施群は側彎手術例22例(92%)・生存率8.3%であっ

たのに対し、

実施群は側彎手術例は6例(20%)・生存率78%であったと報告しています。

10年のフォローアップにおいては脊柱側彎症(cobb角20度以上)を発症した症例は

いなかったようです(19

 

脊柱固定術についても触れようかと思いましたが、専門外であるのと、日本ではあまり

定着していない技術なので、今回は割愛します。

 

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

 

参考文献

  1. Ilaria Sanzarello, Luciano Merlini, Francesco Traina et al . Corticosteroid Treatment Impact on Spinal Deformity in Duchenne Muscular Dystrophy. Int Sch Res Notices. 2014
  2. Maria kinali , marion main , eugenio mercuri , et al. evolution of abnormal postures in Duchenne muscular dystrophy:annals of Indian academy of neurology vol10(5),2007
  3. Bryan C. werner, MD Andrew J. skalsky, et al. ness scoliosis related to handedness in identical twin boys with duchenne’s muscular dystrophy : a case report:Arch Phys Med Rehabil Vol 89, October 2008
  4. Shapiro, D. Zurakowski, T. Bui, B. T. Darras. Progression of spinal deformity in wheelchair-dependent patients with Duchenne muscular dystrophy who are not treated with steroids. Bone Joint J 2014;96-B:100–5.
  5. Gibson DA, Wilkins KE. The management of spinal deformities in Duchenne muscular dystrophy. A new concept of spinal bracing. Clin Orthop Relat Res. 1975 May;(108):41-51.
  6. 湊純,湊治郎,湊正美:デュシェンヌ型筋ジストロフィーの脊柱管理 ―脊柱の伸展位誘導の試み―:リハビリテーション医学43(7),2006
  7. 野島元雄:筋ジストロフィー症に対するリハビリテーション―ジストロフィー児と共に.愛媛大学医学部整形外科教室誌 1987 ;131-134
  8. Kiefer M, Bonarrigo K, Quatman-Yates C et l. Progression of Ankle Plantarflexion Contractures and Functional Decline in Duchenne Muscular Dystrophy: Implications for Physical Therapy Management. Pediatr Phys Ther. 2019 Jan;31(1):61-66.
  9. Awano H, Itoh C, Takeshima Y, et al. Ambulatory capacity in Japanese patients with Duchenne muscular dystrophy. Brain Dev. 2018 Jun;40(6):465-472.
  10. Rodillo E. B., Fernandez-Bermejo E., Heckmatt J. Z., Dubowitz V. Prevention of rapidly progressive scoliosis in Duchenne muscular dystrophy by prolongation of walking with orthoses. Journal of Child Neurology. 1988;3(4):269–274.
  11. Heckmatt JZ, Dubowitz V, Hyde SA, et al. Prolongation of walking in Duchenne muscular dystrophy with lightweight orthoses: review of 57 cases. Dev Med Child Neurol. 1985 Apr;27(2):149-54.
  12. 花山耕三. 筋ジストロフィーへのアプローチ. MB Med Reha No.171:63-67,2014
  13. Young-Ah Choi, Seong-Min Chun, Yale Kim, et al. Lower extremity joint contracture according to ambulatory status in children with Duchenne muscular dystrophy. BMC Musculoskelet Disord. 2018; 19: 287
  14. de Souza MA, Figueiredo MM, de Baptista CR et al. Beneficial effects of ankle-foot orthosis daytime use on the gait of Duchenne muscular dystrophy patients. Clin Biomech. 2016 Jun;35:102-10.
  15. 川井充,安東範明,小林顕,他. 筋ジストロフィーにおける脊柱変形の治療・ケアマニュアル.厚生労働省精神・神経研究委託費筋ジストロフィーの治療と医学的管理に関する臨床研究班, 2004, 60-80.
  16. Alemdaroğlu, Gür G, Bek N, et al. Is there any relationship between orthotic usage and functional activities in children with neuromuscular disorders?. Prosthet Orthot Int. 2014 Feb;38(1):27-33.
  17. 大澤真木子,村上てるみ,石垣景子,他:duchenne型筋ジストロフィー患者における脊柱変形へのステロイド療法の効果:平成20-22年度 精神・神経疾患研究開発費 筋ジストロフィー臨床試験実施体制構築に関する研究 総括研究報告書, 2011
  18. M. King, R. Ruttencutter, H. N. Nagaraja, V. Matkovic et al . Orthopedic outcomes of long-term daily corticosteroid treatment in Duchenne muscular dystrophy. Neurology. 2007;68(19):1607–1613.
  19. Lebel DE, Corston JA, McAdam LC, Biggar WD, Alman BA:Glucocorticoid treatment for the prevention of scoliosis in children with Duchenne muscular dystrophy: long-term follow-up , J Bone Joint Surg Am. 2013 Jun 19;95(12):1057-61.

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