神経難病のリハビリをする人の思考

主に神経難病領域を診療する理学療法士が自己学習した内容についてまとめているブログです。あくまで一個人の見解に過ぎないため、正確性は保証されません。新しく読んだ文献・書籍も紹介していきたいと思います。

慢性痛って?痛みの基礎について、まとめてみた。

こんにちは

三輪書店より出版されている書籍「ペインリハビリテーション」を中心に読んで、疼痛の基礎について学んだことをまとめがてら書いてみようかと思います。

 

 

 

 

 疼痛の定義

1994 国際疼痛学会(IASP:International Association for the Study of Pain)より

「an unpleasant sensory and emotional experience associated with actual or potential tissue damage, or described in terms of such damage」
(実質的あるいは潜在的な組織損傷に結びつく、あるいはそのような損傷を表す言葉を使って表現される不快な感覚・情動体験)

つまり…

痛みは単に一感覚情報ではなく、情動反応や認知処理情報をも含んだ多様な情報として体験されるものということです。

組織損傷に伴って一般的に生じる正常な痛み「急性痛(acute pain)」だけでなく、明らかな損傷がなくても生じる(感じる)痛み「慢性痛(chronic pain)」にも触れているということが大事なポイントです。

 

現在の疼痛概念

古典的な疼痛の概念では、

刺激が純粋な感覚をもたらし、感覚が知覚をもたらすとしており、痛みの場合で言えば、組織損傷という刺激が純粋な痛み(感覚)をもたらし、痛み感覚が痛み(苦痛)や不快感のような近くをもたらしていると考えます。

しかし現代の概念では、

刺激は知覚を生じることもあれば生じない場合もあり、したがって組織損傷がいたみや不快感を生じさせるとは限らないと考えられ、IASPの定義では、痛みの訴える人の中には組織損傷と痛みの対応が見いだされない場合があることも注意付記されています。

 

以前は持続時間によって急性痛・慢性痛と分類されてきましたが、現在ではその両者の病態や発生メカニズムがまったく異なると言われ、痛みは時間的経過によって分類すべきではないとされています。

具体的には強い痛みが持続することで、痛覚系の神経回路に混戦などのひずみ、すなわち可塑的な変化が生じます。

その結果、接触や温度のような非侵害性の体性感覚刺激にのみならず、精神・自律神経系などに加わる様々な刺激にも過敏に反応するようになり、それらの情報を「痛み」として感じてしまうようになってしまう、これが慢性痛であるとしているのです。

なので、諸外国では慢性痛は急性痛とはまったく異なる新たな「病気」として捉えるようになっているそうです。世界的にみると、重篤な慢性痛に悩まされている患者の人口に占める割合は非常に高く、無効な治療やドクターショッピングによる医療費の高騰、就労困難による労働生産性の低下介護費用の増加など社会経済に多大な損失を与えているといわれています。

このような慢性痛への対応が急務と言われる中、米国連邦議会より2001~2010年の10年間に痛みをめぐる様々な問題に国家規模で取り組む「痛みの10年(decade of pain control and research)」が表明され、世界に発信されました。
これらによりいち早く慢性痛医療の変革が始まり、新たな治療法による著効が多数報告されています。

そのポイントとして、

慢性痛に対して従来の外科的治療や薬物療法は奏功しない一方、包括的なリハビリテーションアプローチの有効性が非常に高い

ということが重要になっています。

 

 「ペインリハビリテーション」では、そのような慢性痛に関する解剖・生理学、発生メカニズム、評価法、治療について中心に触れて書かれています。

今回は解剖・生理学、発生メカニズムについて、まとめていきます。

 

 疼痛の基礎

痛みの情報伝達系

液性情報系(免疫系や炎症系)

ホルモンや様々なメディエーター(伝達物質)などを情報として血液などの体内循環系を介する伝達系です。
特徴として、時間がかかる!ということが挙げられます。

哺乳類など身体が大きい生き物では生命の維持や保護に影響が出てしまいます。

神経性情報系

神経インパルスをシグナルとする伝達系です。

これはとにかく速い!ことが特徴です。

侵害逃避反射などが代表例で原索動物から高等動物まで備わっています。

これらの痛み情報伝達系は原始的な動物からヒトを含む高等動物にまで幅広く受け継がれているため、非常に未分化で幼若な反応系と言え、逆に変化しやすく可塑性に富む系であると言えるため、このことが慢性痛を引きおこす原因になっていると考えられています。

 

痛みの伝達経路

ちょっと字が小さいですが、侵害受容器~視床に至るまでの経路について図にしてまとめてみました。

f:id:neurologypt:20190605173001j:plain

痛覚受容器 ・一次侵害受容ニューロン

痛みを感じる受容器(痛覚受容器)は自由神経終末と呼ばれます。

これには「高閾値機械受容器」「ポリモーダル受容器」の二つがあります。

前者は皮膚深部組織という限定的な部位に存在し、強い機械的刺激に反応する組織になります。後者は皮膚以外にも筋・内臓などと広く存在し、機械的刺激のみでなく科学・熱刺激にも興奮します。

 

なので一般的に鋭い痛み(一次痛)は高閾値機械受容器が速い伝導特性のあるAδ繊維を経由して脳に伝わったものであり、いわゆる鈍い痛み(二次痛)というものはポリモーダル受容器が組織の発痛物質などによる疼痛も含めてC繊維を経由して脳に伝えているものと考えられます。

 

上記で触れたAδ繊維やC繊維は痛覚受容器~脊髄後角までをつなぐ一次侵害受容ニューロンと呼ばれます。

 それに対し、脊髄後角~視床をつなぐ経路(脊髄視床路)を二次侵害受容ニューロンと呼びます。

 

二次侵害受容ニューロン

これも2種類に分けることができます。

一つ目はAδ繊維からの入力を主に受ける特異的侵害受容(NS:nociceptive specific)ニューロンです。これはAδ繊維の脊髄側末端部より放出されるグルタミン酸により興奮し、脊髄の第Ⅰ・Ⅱo・Ⅴ層に存在します。高閾値機械受容器と連動して、強い機械的刺激に興奮する特性をもっており、痛みの発生箇所を知らせる役割を持っています。

二つ目はC繊維からの入力を主に受ける広作動域(WDR:wide dynamic range)ニューロンです。これはC繊維の脊髄側末端部より放出されるサブスタンスP(SP)、カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP:calcitonin gene-related peptide)により興奮し、脊髄の第Ⅰ・Ⅱ・Ⅳ・Ⅴ・Ⅵ層に存在します。ポリモーダル受容器と連動して、幅広い刺激に応答して刺激強度に応じて興奮する特性があり、痛みの程度・強度を知らせる役割を持っています。

そして、繰り返し刺激により感受性が増すwind-upの特性および、痛み刺激以外の刺激からの入力を痛みの情報として中枢へ伝達する特性を持っています。

f:id:neurologypt:20190606090319j:plain

rexed脊髄後角の機能分類(文献2より)

 

この図を見てもわかるように、痛覚はAδ・C繊維によって主に脊髄灰白質のⅠ・Ⅱ層に投射されます。

が、これはあくまで一次痛の場合になります。

非侵害刺激を伝達するC繊維は第Ⅳ~Ⅵ層にかけて投射されており、第Ⅰ・Ⅱ層以外にも幅広く存在するポリモーダル受容器が二次痛に主に関与すると言われています。

f:id:neurologypt:20190606162319j:plain

文献3より



 

痛みの中枢伝達経路について、もう少し見てみようと思います。

脊髄視床

f:id:neurologypt:20190606092122j:plain

脊髄視床

一次侵害受容ニューロンより脊髄まで痛み刺激が伝達された後、二次侵害受容ニューロンは侵入した分節レベルより1~3分節高位で反対側の前側索部に交叉した後に2つの経路に分岐してそれぞれ視床の対応部分に投射されます。

外側脊髄視床

一つ目は外側脊髄視床路になります。

言葉の通り、脊髄の外側部を通過して視床の後腹側核(外側核群・腹側基底核とも)に投射した後に体性感覚野へと伝達する経路です。最もイメージしやすい感覚の知覚経路になります。

内側脊髄視床

2つ目は内側脊髄視床路になります。

脊髄の内側部を通過して視床の髄板内核(内側核群とも)へ投射した後、島皮質・前帯状回・偏桃体・海馬・前頭前野などへ信号を伝達します。これらの伝達された部位はいわゆる認知・情動に強く関与される部位で、慢性痛を作り出す脳の部位になります。

 

包括的リハビリテーションにおける慢性痛の治療対象は?

つまり、これまでの内容を整理して慢性痛を対象とした包括的リハビリテーションの治療対象を解剖・生理学的に整理して考えると、

ポリモーダル受容器 ⇒ C繊維 ⇒ 脊髄後角第Ⅴ層の広作動域ニューロン ⇒ 内側脊髄視床路 ⇒ 島皮質・前帯状回・偏桃体・海馬・前頭前野

という経路である。ということになります。

 

実際、慢性痛患者では情動に強く関与する部分である偏桃体や島皮質が過活動となっており、一方で認知に関わる前頭前野視床灰白質部分の活動低下・脳萎縮が認められているそうです。

その結果、痛みだけでなく痛みに対する認知障害や消極的な行動・意思決定といった認知・情動の問題も出現していると言われています。そしてその不活動がさらなる慢性痛の増悪につながるという負の循環モデルがあることも示されています。

f:id:neurologypt:20190606170400j:plain

痛みの恐怖-回避モデル

 

このように見てみると、急性痛と慢性痛とは痛みの持続時間の違いという単純なものではなく、病態そのものが異なるものであることが理解できると思います。

次回はそんな慢性痛のリハビリテーションについて、詳しくまとめてみたいと思います。

 

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

 

参考文献

  1. 松原貴子,沖田実,森岡周:Pain Rehabilitation , 三輪書店,2012
  2. 土井篤:脊髄後角における感覚伝達とゲートコントロール理論を考える , 保健科学研究誌14,2017
  3. 前岡浩:痛みの中枢機構 -脊髄と脳を中心に- , pain rehabilitation 5(1),2015

もし「面白い!」「参考になる!」と思いましたら、読者登録をお願い致します!!

ブログランキング・にほんブログ村へにほんブログ村

にほんブログ村 病気ブログ 医療従事者・MRへにほんブログ村

にほんブログ村 介護ブログへにほんブログ村