神経難病のリハビリをする人の思考

主に神経難病領域を診療する理学療法士が自己学習した内容についてまとめているブログです。あくまで一個人の見解に過ぎないため、正確性は保証されません。新しく読んだ文献・書籍も紹介していきたいと思います。

成人ALS患者の機能維持・QOL向上にどんな運動療法・リハビリがいいの?

こんにちは。

ALSの運動療法に関するシステマティックレビューが出たので紹介します。

 

成人ALS患者に対する有酸素運動レジスタンストレーニング、その他通常のリハビリ、専門家による他動運動、呼気筋トレーニング、日常活動の指導の6つの介入を組み合わせて効果を検討するネットワークメタアナリシスを行った結果、有酸素運動レジスタンストレーニング+通常のリハビリの組み合わせがALS患者のQOL疲労の改善に寄与し、有酸素運動レジスタンストレーニングが全般的機能の改善に寄与する可能性を示唆する結果が得られたとyining zhu氏らより報告されました。

 

2022年に公開されたfrontiers in aging neuroscinece誌のvolume14"Mixed comparison of different exercise interventions for function, respiratory, fatigue, and quality of life in adults with amyotrophic lateral sclerosis: systematic review and network meta-analysis"の内容になります。

 

ALSの運動療法をめぐる背景

ALS患者に対する運動療法は筋力や心肺機能を改善し、QOLにポジティブな効果を与えることが報告されています(garber et al.,2011; ying et al.,2021)。2021年のシステマティックレビューでもALS患者の筋力低下を抑制し、短・中・長期にわたって日常生活におけるパフォーマンスの促通に寄与したことが報告されています(ortega-hombrados et al., 2021)。

しかし異質性が高い(各々でプログラム内容や評価方法が異なる)ため、一般にエビデンスレベルの低さが指摘されています。2019年のzucchiらの報告では高頻度と通常頻度の運動療法ではALSFRS-Rスコア、運動機能、呼吸機能、生存率、疲労QOLに変化を示さなかったことが報告されています。あるシステマティックレビューではALS患者の機能的能力、全般的なQOL、有酸素能力の統計的優位性は示されたものの、呼吸機能、疲労、疼痛、体力の優位性を示すことはできなかったとしています(rahmati and malakoutinia,2021)。

 加えて潜在的に秘められているネガティブな効果についても指摘があります。例えば2019年のtsitkanousらの報告ではトレッドミルや自転車など身体運動中の転倒リスクの増加について報告しています。harwoodらは身体運動の容量反応効果が健常人とでは異なり、長期間のレジスタンストレーニングを行った際のオーバートレーニングのリスクがALS患者では高くなると警告しています。これらの相反する報告のためALS患者に対する最善の運動療法は明らかでなく、効果も明らかにはなっていません。2013年のコクランレビューでも研究数が乏しく、明確なエビデンスが示されなかったとしています(Dal Bello-Haas and Florence, 2013)。

 

ネットワークメタアナリシスを用いて複数の介入方法の組み合わせの効果を検討

 本論文では近年ALS患者に対する身体運動に関する多くの研究が出ていること、既存の研究が異なる介入群と対照群で行われているため、同時に二つの介入の効果を検討するペアワイズメタアナリシスが困難で実施されていないことを指摘しています。本論文ではペアワイズメタアナリシスを拡張したネットワークメタアナリシスアプローチという統計法を用いて、ある疾患に対する二つ以上の介入を同期的に比較することを行うことで、複数の介入のどのような組み合わせて機能やQOLにポジティブな影響を与えるのかを検討しています。

 

有酸素運動レジスタンストレーニングの組み合わせが機能改善に寄与し、さらに通常のリハを追加することでQOL疲労の改善にも寄与する。

2000年から2022年2月までを検索期間とし、Pubmed、Embase、web of sciencにて検索を行った結果、10本の研究が最終的に組み入れられました。介入の対象は有酸素運動レジスタンストレーニング、通常リハビリ、他動運動、呼気筋強化練習、日常活動の6つでした。その結果、全体的な機能スコア(ALSFRS-R)の改善には有酸素運動レジスタンストレーニングの組み合わせが最も有効でした。さらに通常のリハビリも加えた組み合わせは疲労の軽減およびQOLの改善に最も高い効果を占めることが示されました。いずれのアウトカムも日常活動のみでは効果が最も低くなる可能性が指摘されました。呼吸機能については有酸素運動レジスタンストレーニングの組み合わせにより改善の潜在性が指摘されましたが、その有効性は明確とはなりませんでした。

 

以上、最後までお読みいただき、ありがとうございました!

 

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