神経難病のリハビリをする人の思考

主に神経難病領域を診療する理学療法士が自己学習した内容についてまとめているブログです。あくまで一個人の見解に過ぎないため、正確性は保証されません。新しく読んだ文献・書籍も紹介していきたいと思います。

呼吸機能良好なDMD児に対するlung volume recruitmentには効果がない?

こんにちは。

lung volume recruitmentについて、RCTが新しく出たので紹介します。

 

今回紹介する論文は

 

"Shirri L Katz, jean K mah, hugh j macmillan. Routine lung volume recruitment in boys with duchenne muscular dystrophy: a randomised clinical trial. Thorax. 2022.CC BY-NC

http://dx.doi.org/10.1136/thoraxjnl-2021-218196

です。

 

 

abstract

6-16歳で予測%FVCが30%以上のDMD児を評価者盲検化の下、2年間従来の治療のみの群とLVRを1日2回追加して行う群に分けて追跡した結果、2群間の%FVCの平均差は1.9%(p=0.68)と減少率の違いを見出すことはできなかった。

背景

DMDは小児期に発症する進行性の神経筋疾患で、夜間の換気不足や拘束性換気障害、気道分泌物貯留、無気肺、肺炎などの呼吸障害を引き起こす。DMDの肺機能維持を目的とした呼吸管理はNon-Invasive Ventilation(以下、NIV)とともに呼吸をサポートし、気道クリアランスを改善させる。Lung volume recruitment(以下、LVR)は息溜めによってより多くの空気を吸気させるテクニックで、息溜めは肺を拡張し、無気肺を予防、換気血流比を一致させ、胸郭の弾性運動や呼気流量を増加させ、気道壁への剪断力にて分泌物を除去することができる。自発呼吸以上の吸気は胸郭や肺の柔軟性を維持し、肋椎関節や肋軟骨関節の拘縮を予防すると仮説が立てられている。過去の研究ではLVRによりFVCの減少率が低下し、胸郭の可撓性の尺度であるmaximum insufflation capacity(MIC)が維持され、peak cough flow(PCF)が維持あるいは増加すると報告している。長期間のLVRによるRCTはALS患者を対象とした臨床研究が報告されているが、それは成人で進行の早い疾患である。小児の神経筋疾患単独に対する長期間のLVRの臨床研究はこれまでに報告されていない。強固なエビデンスが欠けているにもかかわらず、いくつかのケアガイドラインではLVRやそれに似た気道クリアランステクニックの使用が推奨されており、ルーティンでのLVRの使用のメリットについての検討は十分にされていない。

目的

DMD児に対する1日2回のLVRが通常のケア単独と比較して、2年間における%FVC、PCF、胸郭可撓性に与える影響を検討する。

方法

遺伝子検査および筋生検にてDMDの確定診断を得た6-16歳の児童で、%FVCが30%以上保たれており、介護者がLVRを実施できることが期待される症例を組み入れ基準とした。LVR実施の適切なタイミングは明らかにされていないため、%FVCが80%以上の児童も組み入れた。他の介入研究に参加している、元々LVRを実施しているあるいはmechanical in-exsufflation therapyをしている、肺機能検査の実施が困難、喘息や閉塞性肺疾患による気胸のリスク、症候性心筋症があるなどに該当する症例は除外された。
 ベースラインでの評価後、盲検化の下、2年間の通常介入群とLVRを追加する群の2群に振り分けた。通常介入には理学療法、栄養サポート、呼吸器感染症に対する経口・静脈内抗生物質の使用、睡眠時呼吸障害に対するNIV、ステロイドの使用が含まれた。
 LVRは児童の吸気と合わせて3-5回の連続バッグ送気し、送気毎に吸気は保持するよう努め、MICまでの最大吸気を行った後、咳嗽させて行った。吸気量については胸郭拡張の目視、患者の快適さの確認、圧力開放弁にて最大40cmH2Oまでの圧となるように配慮して決定された。これらを1日2回3-5セット、食事の前あるいは食後2時間以上後に行うよう指導された。LVR技術に関してはフォローアップでの来院時に再度評価し、必要性があれば追加の指導を行った。
 主要評価項目は2年後の%FVC、副次的評価項目はMIC-VC差、PCF、TLC、MIP、MEPとした。肺機能検査は盲検化の下、6か月毎に行われた。またこの際に介入群の児童からはLVR実施についてのアドヒアランスデータを入手した。アドヒアランスデータはLVRキットに装着した電池式データロガーより抽出し、実施した日付・時間により1日当たりのセッション数を計算することができるようになっていた。少なくとも50%の日で1日1回以上のLVRセッションが行われていることを介入アドヒアランスと定義された。
 主要解析はベースラインの%FVCで調整された2年後の%FVCを共分散分析にて行った。このモデルには歩行ステータスと年齢を含んだ。ベースラインでのMIC-VC差がFVCの10%未満あるいはそれ以上の症例によるサブグループごとにも解析を行い、ベースラインでの胸部膨張率や吸気量が長期効果と関連するかどうかの検討も行った。年齢および歩行ステータスで調整した後にCox比例ハザード分析にて%FVCが10%低下するまでの期間を対照群と介入群で比較した。

結果

最終的に66名が組み入れられ、36名が介入群、30名が対照群となった。そのうち53名が2年の研究を終了した。平均年齢は11.5歳、平均%FVCは84.8%、52名の対象者がMIC-VC差がFVCの10%より大きい値であった。

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対象患者のベースライン

 

予定されていた14%で呼吸機能検査が行われず、実施された呼吸機能検査のうち77%は信頼性・妥当性が認められた。18%は信頼性のみ認められ、6%は信頼性・妥当性得られず、再実施も行われていなかった。最初の1年のLVRアドヒアランスが認められた症例は59%、2年目のLVRアドヒアランスが認められた症例は62%、両年ともLVRアドヒアランスが認められた症例は41%であった。
 共分散分析の結果、2群間の2年後のおけるFVCの平均差は1.9%(95%CI -6.9~10.7,p=0.68)であった。各時点での%FVCの二次解析でも時間-群間の相互作用は認められなかった。

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%FVCの2年後における群間差

 

アドヒアランスで調整した共分散分析の結果では、2群間のFVCの平均差は2.7%であった。Cox比例ハザード分析による%FVCの10%低下までの時間の群間差は認められなかった。

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%FVCの10%低下までの期間における群間差

 

MIC-VC、PCF(介助・非介助)、MIP、MEP、TLCにおいても同様に群間差は認められなかった。

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その他呼吸機能における群間差

 

ベースラインでのMIC-VC差がFVCの10%未満あるいはそれ以上の症例によるサブグループごとの解析では%FVCの経時的な傾きも違いは認められなかった。

 有害事象は記録されなかったが、LVRに関連していると思われる失神を経験した。

結論

神経筋筋疾患の患児に対するLVRのRCTとしては初めての発表となったが、2年後の%FVCにおいて通常ケア群と比較して有意な変化を見ることはできなかった。これは驚く結果ではなく、肺機能が保たれている例では%FVCの低下率が小さいためと考えられる。ステロイドの使用がさらに機能を保つことに貢献していたと思われる。今回の結果より、肺機能が保たれている例に対してはLVRを1日2回行う必要はないことが示唆された。アドヒアランス率が低いが、これは非侵襲的陽圧換気が処方された際と同程度である。肺機能低下が予想されるフェイズでは気道クリアランスの確保や胸郭コンプライアンスの維持に重要な役割があるため、今後はLVRのアドヒアランスが低い理由を解明する必要がある。

臨床応用・さらなる研究へ

・LVRの介入研究を行う際のアドヒアランス率は肝になる。

アドヒアランスを高める方法についての検討が必要。

 

なかなか残念な結果ではありましたが、アドヒアランス率の低さを考えると呼吸機能が良好なDMD児の症例を対象にしたとはいえ、LVRの効果を否定するものではないのではないかと思いました。

最後までお読みいただき、ありがとうございました!!

 

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