神経難病のリハビリをする人の思考

主に神経難病領域を診療する理学療法士が自己学習した内容についてまとめているブログです。あくまで一個人の見解に過ぎないため、正確性は保証されません。新しく読んだ文献・書籍も紹介していきたいと思います。

ALS患者に対する筋力運動の効果

こんにちは。

今日はALS患者に対する運動について比較的質が高く、最も有名な論文の一つであろうと思われる論文を紹介します。

 

その論文は

Drory VE, Goltsman E, Reznik JG, Mosek A, Korczyn AD. The value of muscle exercise in patients with amyotrophic lateral sclerosis. Journal of Neurological Sciences; 2001;191(1-2):133-7 CC-BY-NC-ND

(「ALS患者に対する筋力運動の効果」)

です。

 

詳細は割愛しますが、ALS領域においては運動というものは過用を引き起こすなどかえって機能を低下させる可能性があり、あまり推奨されなかった歴史があります。

本論文はそのような主張に対し、一石を投じた内容になります。

それでは、いってみましょう。

 

背景

ALS患者に対する定期的な運動が推奨されるか、あるいは避けられるべきかは賛否両論である。

多くの神経筋疾患の管理で定期的な中等度負荷の運動は弱化した筋に対するミトコンドリア含有量の増加、筋血流量の促進と強化、運動持久性の改善、凍結肩や筋骨格系疼痛などの合併症を改善させるとして提唱されている。

しかしALSにおいてはしばしば過負荷による筋損傷や筋力保持を目的に身体活動を避けることが推奨されている。この推奨は主にALS患者において発症前の余暇や仕事での身体活動の負荷が大きかったとする疫学的調査を元にしており、その他の研究において、同様の結果は確認されていない。

動物実験やシングルケーススタディで有害事象や過負荷の影響なく筋力の改善、呼吸機能の悪化抑制の効果があったことが報告されている。痙性や疲労、筋骨格系疼痛、QOLの改善にも定期的な運動は有効である。

 

目的

専門家指導の下で行われる定期的な中等度負荷運動の効果を運動機能や活動制限、疲労、筋骨格系疼痛、QOLの面から評価すること

 

方法

ALSと診断された25名(男性14名,平均年齢60歳,ALSFRS平均27.5)で呼吸器をつけていない歩行可能な方で指示理解が可能な方を対象とした。無作為に14名の運動群(男性8名)と11名の日常生活群(男性6名)に分け、両群のステータスの差は認めなかった。

運動群の介入は経験のある理学療法士が四肢・体幹を含む運動のリストから個々の体調、神経学的所見、フィットネスレベルに応じて個別に調整を行った。運動プログラムの主な目的は筋持久力の改善と適度な負荷をかけるだけでなく筋の長さを大きく変えることである。運動プログラムは自宅で15分間1日2回でデザインされた。運動プログラムは各患者ごとに確認をし、来院毎に見直しを行った。14日間毎日電話で受け入れ具合を確認し、ドロップアウト予防を図った。これらのコンタクトは分析するパラメーターに影響を与えうるため、日常生活群にも同様にコンタクトを図った。

評価はベースライン、3.6.9.12ヶ月後で行った。MMTは肩関節外転、肘屈曲・伸展、手指外転・伸展、股関節屈曲、膝屈曲・伸展、足関節背屈・底屈を計測した。Ashworth、ALSFRS、Fatigue severity scale、a visual anlog scale for musculoskeletal pain、SF-36についても評価を行った。

統計は2群間でのwilcoxonの符号付順位検定および群内・間のANOVAで相互作用の検討を行った。

 

結果

両群とも著しい悪化があり、ドロップアウト率が高かった。9.12か月のフォローアップは評価可能であった患者数が少なく統計解析が不可能であった。

MMT:両群ともすべての患者で悪化が認められた。6か月後の運動群で悪化率の減少傾向が認められたが、統計的に有意ではなかった。

ASH:日常生活群では時間経過とともに痙性の増悪を認め、運動群では痙性の減少を認めた。3か月時点での統計的有意差を認めた。

FRS:MMTと似ており全ての患者で時間経過とともに低下を認めたが、運動群で3か月時点での低下率の有意な減少を認め、6か月時点でも同様の傾向が認められた。

FSS:群間で統計的有意差は認めなかったが、日常生活群で症状に関連した疲労が増えているのに対し、運動群では疲労の変化を認めなかった。

pain:両グループとも時間経過とともに疼痛の増悪を認め、運動による明らかな疼痛への効果は確認されなかった。

SF-36:両群ともフォローアップ期間でわずかに悪化を認めたが、有意でないものの日常生活群でより悪化の傾向がみられた。

 

結論

ほとんどの尺度で運動プログラムのプラス効果を認めたが、活動制限と痙縮のみで統計的優位が認められた。しかし患者数が少なく、脱落率も高かったため、統計パワーが小さくなった。

 

臨床応用・さらなる研究へ

・過去の報告より慣習的にALS患者に対する運動は有害であるという考えが一般的にあったが、今回の報告ではそのような結果は認められずポジティブな結果が認められたRCTで貴重。

・今回行われた運動の詳細が不明でどのような運動を処方するのがよいか、今後具体的にしていく必要がある。

・長期の経過を見るためにももっと数を増やした研究が必要である。

 

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

 

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